デザイン学部 デザイン学科
デザインマネージメントコース
大北貴志(おおぎた たかし)さん
実家のある三重県、大学のある愛知県の11の一級河川の水を使い、紙を漉きその比較を行いました。“ペーパーフリー”という言葉があります。紙が不要になりつつある時代ですが、本当にそうなのかという疑問を持ちました。ペーパーフリーを直訳すると、紙が自由になるという意味でもあります。紙が不要になる時代は紙が自由になる時代であると捉え直し、これまで固定化されてきた紙の概念から解放され、もっと高い水準で必要とされるようになると仮定しました。では、高い水準とはどんなことかと考え、素材としての肌触りや風合いを残しつつ、ローカル化され多様化していくと考えました。水の違いで紙の違いが生まれることを知り、さまざまな川の水で紙を漉いてみました。紙の違いは、その地域特有の風土を表すことになりました。
もともと素材に興味がありました。僕は、あるパン屋さんのバゲットが大好きなんですが、原料としてはどのパン屋さんもそれほど違いはないはずです。でも、違いがある。どうしてだろうと考えました。パンも身近なものですが、身近なもののことはかえってあまり知りません。大学で紙をたくさん使ってきましたが、紙を作ることに関して深く考えていませんでした。調べてみると知らないことばかりでした。水についても同じです。身近なものだから知らなくて、でも、身近なものだからこそ表現したいと考えました。
土佐和紙について調べ高知県のいの町紙の博物館に行ったとき、学芸員の方から昔は川で原料をさらし、川の水で直接紙を漉いたと伺いました。また、紙を見て川の違いを見極める目利きがいたと聞きました。川の違いで紙の違いが出るだろうと、ことによったら生活排水など、その日、その場所からしか取れない変化が生まれるだろうと考えました。
ローカルで多様化されていくことに関しては、グローバルとローカル、相反するものではなく、一対のものではないかと思っています。ローカルなものを丁寧に発信するすることでグローバルにつながる。ローカルといえど、グローバルにつながる面があると思っています。もっと紙の使用が減った将来、素材としての紙の重要性が増してくるのではないかと考えています。